Columnコラム
訪問歯科とは?対象者・費用・できる治療・依頼方法を歯科医師が解説

通院のたびに、ご家族が付き添って車の乗り降りを手伝い、待合室で長い時間を過ごすこともあります。足腰が弱くなったご家族を歯科医院まで連れて行くのは、想像以上に負担が大きいです。
「痛みが出るまでは様子を見よう」と歯の治療が後回しになり、気づいたときには入れ歯が合わなくなっていた、という話も珍しくありません。お口の状態は、食事や体調にも直結します。
こうした場合の選択肢が訪問歯科です。歯科医師や歯科衛生士が自宅や施設へ出向き、外来と同じように歯科診療や口腔ケアを行います。
この記事では、訪問歯科の対象になる方、受けられる治療、費用と保険の仕組み、対応エリア、依頼方法までを順に解説します。読み終えるころには、「ご家族が対象になりそうか」「どこに何を伝えて相談すればよいか」が分かります。
訪問歯科とは?

訪問歯科とは、歯科医院への通院が難しい方のもとへ歯科医師や歯科衛生士が訪問し、歯科診療や口腔ケアを行うサービスです。制度上は「歯科訪問診療」と呼ばれ、健康保険が使える保険診療として位置づけられています。
自費の出張サービスではありません。外来と同じように保険証を使い、負担割合に応じた自己負担で受けられます。
▼通常の歯科診療との違い
最大の違いは、患者さんが移動するのか、歯科医師が移動するのかという点です。
外来では、患者さんが歯科医院へ足を運び、備え付けの歯科ユニットに座って治療を受けます。訪問歯科では、歯科医師と歯科衛生士が持ち運びできる歯科用機器を持参し、ベッドや車椅子の上で治療を行います。
持参する機器には、歯を削るためのポータブルユニット、吸引器、ポータブルのレントゲン装置などがあります。
外来診療と訪問歯科の主な違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 通院(外来) | 訪問歯科 |
|---|---|---|
| 診療する場所 | 歯科医院 | 自宅・施設・入院先など |
| 使用する設備 | 院内の据え置き型設備 | 持ち運びできる歯科用機器 |
| 治療時の体勢 | 歯科用チェア | ベッド・車椅子など普段の体勢 |
| 対象となる方 | 原則として誰でも | 通院が困難な方 |
| 費用の仕組み | 通常の歯科治療費 | 治療費に訪問診療に関する費用が加わる |
▼訪問してもらえる場所
訪問歯科は、患者さんが日常的に療養している生活の場へ出向く診療です。具体的には、次のような場所が対象になります。
- ✓自宅
- ✓有料老人ホーム
- ✓サービス付き高齢者向け住宅
- ✓グループホーム
- ✓特別養護老人ホーム
- ✓介護老人保健施設
- ✓入院中の病院
一方で、デイサービスやデイケアなどの通所施設は、原則として訪問歯科診療を行う場所には該当しません。通所施設は生活の場ではなく、日中に通う場所と位置づけられているためです。「デイサービスに来ている間に診てほしい」という要望は、制度上難しい点をご理解ください。
また、入院中の病院への訪問は、病院側の方針や主治医の判断が関係します。実際に訪問できるかどうかは、療養場所ごとに個別の確認が必要です。
訪問歯科の対象になる人・ならない人
訪問歯科は誰でも自由に利用できる制度ではありません。判断の基準は「疾病や傷病などによって、歯科医院への通院が困難かどうか」の一点です。
ここを誤解したまま「うちは寝たきりではないから無理だろう」と諦めてしまう方が多いため、対象になるケースとならないケースを分けて確認します。
▼訪問歯科の対象になる人
通院が困難と判断されやすいのは、次のような方です。
- ✓寝たきりで外出が難しい方
- ✓車椅子を利用しており、移動の負担が大きい方
- ✓要介護状態で、外出そのものが難しい方
- ✓身体的な疾患や障がいによって通院が難しい方
- ✓認知症などにより、歯科医院での治療を受けることが難しい方
- ✓在宅酸素療法や胃ろうなど、医療的ケアを受けており外出が難しい方
注意していただきたいのは、要介護認定の有無だけで対象が決まるわけではないことです。要介護認定を受けていない方でも、実際に通院が難しい状態であれば対象になる可能性があります。反対に、要介護認定を受けていても問題なく外来へ通える方は対象になりません。
また、骨折や手術のあとで一時的に外出が難しくなった方も対象になり得ます。関西訪問歯科センターでも、一時的に通院が難しい方の診療を行っており、通院できる状態まで回復された場合は外来通院へ切り替えていただけます。
小児の方や障がいのある方についても、通院が困難であれば対応しています。年齢だけを理由に対象外になることはありません。
最終的に対象となるかどうかは、患者さんの身体状況や認知機能、通院時の介助状況などを踏まえて歯科医師が個別に判断します。
対象になるか分からない場合は、自己判断せず、現在のお口や身体の状態を伝えたうえでご相談ください。関西訪問歯科センターでは、対象になるかどうかの判断を含めてご相談を受け付けています。
▼訪問歯科の対象にならない人
一方、次のような場合は原則として訪問歯科の対象になりません。
- ✓自力で問題なく歯科医院へ通院できる方
- ✓通院が可能であるにもかかわらず、便利だからという理由で訪問を希望する場合
- ✓訪問診療の要件を満たさない場所での診療を希望する場合
訪問歯科は、通院が困難な患者さんのために設けられた保険診療の枠組みです。「自宅で診てもらったほうが楽だから」という理由だけで利用できる制度ではない点は、あらかじめご理解ください。
なお、ご家族の送迎があれば通院できる場合は、関西訪問歯科センターでは原則として通院をご案内しています。送迎が難しい場合にご訪問する運用です。ただし、送迎そのものは可能でも、認知症によって車の乗り降りが難しい、移乗に大きな介助が必要といったケースもあります。判断に迷う場合はご相談ください。
訪問歯科でできること・できないこと
「訪問だから簡単な処置しかできないのでは」と心配される方は少なくありません。実際には、外来で行う治療の多くに対応できます。ただし、訪問先の環境や患者さんの全身状態によって、行えない処置もあります。
▼虫歯・歯周病・入れ歯などの治療
関西訪問歯科センターでは、訪問先で次のような診療に対応しています。
- ✓虫歯の治療
- ✓歯周病の治療
- ✓歯石除去
- ✓入れ歯の作製
- ✓入れ歯の調整と修理
- ✓抜歯
- ✓レントゲン撮影
- ✓定期的な口腔管理
レントゲン撮影も、ポータブルのレントゲン装置を持参して訪問先で行えます。「レントゲンを撮るためだけに歯科医院へ行かなければならない」ということはありません。
対応できる治療の範囲は、歯科医院の体制や患者さんの全身状態によって異なります。持病や服薬の内容によっては、処置の前に主治医へ確認したうえで進める場合もあります。
▼口腔ケアと日常の口腔管理
治療と並んで訪問歯科の柱になるのが、継続的な口腔ケアです。
- ✓歯や口腔内の清掃
- ✓入れ歯の清掃と管理方法の説明
- ✓ブラッシング指導
- ✓ご家族や介護者の方への口腔ケア指導
高齢になると、唾液が減る、細かい動作が難しくなる、といった理由で口の中が汚れやすくなります。ご家族が毎日ケアをしていても、磨き残しが起きやすい場所は人それぞれ違います。歯科衛生士が実際の口の中を見ながら、どこをどう磨けばよいかをその場で伝えられる点は、訪問ならではの利点です。
口腔環境を整えることは、食事を続けるうえでも大切です。誤嚥性肺炎との関係については、口腔ケアによって発症リスクの低下が報告されている研究があります。断定できるものではありませんが、日々のケアを続けることは非常に重要です。
▼訪問では対応できない治療
訪問先の設備や患者さんの全身状態によっては、対応できない処置もあります。
- ✓全身麻酔が必要な処置
- ✓大規模な外科手術
- ✓入院管理が必要な治療
- ✓高度な設備を必要とする処置
- ✓インプラント埋入など一部の治療
また、関西訪問歯科センターでは、摂食・嚥下機能への専門的な対応や嚥下内視鏡検査は行っていません。飲み込みの機能に不安がある場合は、対応している医療機関をご確認ください。
訪問先で対応できない治療が必要と判断された場合は、歯科医院や病院での治療をご提案することがあります。これは「患者さんが訪問歯科の対象外」という意味ではなく、その処置が訪問先では実施できないという別の問題です。
訪問歯科の費用はいくら?保険適用と料金の目安
費用は、多くの方が一番気にされる点です。訪問歯科には健康保険が使えるため、全額自己負担になることはありません。
▼訪問歯科にかかる費用の内訳
訪問歯科の費用は、大きく3つに分けられます。
| 費用の種類 | 内容 |
|---|---|
| 歯科訪問診療に関する費用 | 歯科医師が訪問して診療するための費用 |
| 治療費 | 虫歯治療・歯周病治療・入れ歯治療などの費用 |
| 居宅療養管理指導費 | 条件を満たす場合に介護保険で算定される管理・指導の費用 |
このうち歯科訪問診療に関する費用は、訪問先や、同じ建物で同じ日に何人を診療するかによって金額が変わります。自宅で1人だけ診療する場合と、施設で複数人をまとめて診療する場合とでは、算定される区分が異なるためです。
▼医療保険・介護保険の負担
歯科治療そのものには、原則として医療保険が使われます。虫歯の治療も、入れ歯の作製も、抜歯も医療保険の対象です。
これに加えて、要介護・要支援認定を受けている方が自宅などで療養上の管理・指導を受ける場合には、介護保険による居宅療養管理指導が関係することがあります。医療保険と介護保険が、それぞれ別のサービスに対して使われる形です。
自己負担割合は、医療保険では加入している制度や年齢、所得によって1割から3割です。介護保険も、所得等によって1割から3割に分かれます。
▼1回あたりの費用の目安
関西訪問歯科センターでは、自己負担1割の場合、1回あたりおおむね3,000円から5,000円程度が目安です。入れ歯が完成する回など、費用が大きくなる回では5,000円から7,000円程度になります。
これは治療内容を含めた目安であり、実際の金額は処置の内容、訪問先、負担割合、介護保険の適用状況によって変わります。毎回同じ金額がかかるわけではなく、状態が落ち着いて定期的な管理が中心になれば、負担は軽くなっていきます。
▼交通費・出張費
訪問歯科では、制度上、訪問に要した交通費を患者さんへ実費で請求できる場合があります。そのため、歯科医院によっては交通費や出張費が別途必要になります。
関西訪問歯科センターでは、交通費・出張費はいただいていません。ご請求するのは、保険診療の自己負担分のみです。
治療内容や訪問場所によって費用は変わります。おおよその金額を知りたい場合は、お口の状態と訪問先をお伝えいただければ、事前に目安をご案内します。
訪問歯科はどこまで来てもらえる?
「近隣に訪問歯科に対応している歯科医院がない」と感じている方も、範囲の考え方を知ると探しやすくなります。
▼訪問範囲は原則として医院から16km以内
保険診療として訪問できる範囲には、原則として歯科医院から16km以内という基準があります。この範囲を超える場所への訪問は、特別な事情がある場合を除いて認められていません。
つまり、訪問歯科を行っている医院であっても、どこへでも来てもらえるわけではありません。訪問歯科を探すときは、「訪問歯科をやっているかどうか」だけでなく、「その拠点から自宅までの距離が範囲内か」まで確認する必要があります。
自宅の住所を伝えて対応可能か問い合わせるのが確実です。
▼関西訪問歯科センターの対応エリア
関西訪問歯科センターは、複数の拠点から訪問診療を行っています。
- ✓まきつか院
- ✓あしはらばし院
- ✓てらかどクリニック
- ✓おおとり歯科
- ✓みと院
- ✓うおずみモール歯科
これらの拠点から、大阪府・兵庫県・奈良県の広い範囲をカバーしています。
| 都道府県 | 主な対応市区町村 |
|---|---|
| 大阪府 | 大阪市、守口市、門真市、四條畷市、大東市、東大阪市、八尾市、松原市、藤井寺市、柏原市、羽曳野市、富田林市、河内長野市、太子町、河南町、堺市、大阪狭山市、高石市、泉大津市、忠岡町、岸和田市、和泉市、熊取町(一部の地域:豊中市、吹田市、摂津市、寝屋川市、交野市、千早赤阪村) |
| 兵庫県 | 明石市、稲美町、播磨町(一部の地域:神戸市西区、神戸市垂水区、三木市、小野市、加古川市、高砂市、淡路市) |
| 奈良県 | 平群町、三郷町、斑鳩町、王寺町、上牧町(一部の地域:生駒市、奈良市、大和郡山市、安堵町、河合町、香芝市、葛城町) |
同じ市内でも地域によって対応可否が分かれる場合があります。詳しい対応エリアは対応エリアページでご確認いただくか、住所をお伝えのうえお問い合わせください。
訪問歯科を依頼する方法
訪問歯科の相談ルートは1つではありません。介護サービスを利用しているかどうかで、頼みやすい窓口が変わります。
▼ケアマネジャーなどを通して相談する
すでに介護サービスを利用している場合は、担当者へ相談する方法があります。
- ✓ケアマネジャー
- ✓地域包括支援センター
- ✓主治医
- ✓病院の医療ソーシャルワーカー
ケアマネジャーは地域の医療・介護資源を把握しているため、対応可能な訪問歯科を紹介してもらえることがあります。入院中であれば、退院前に医療ソーシャルワーカーへ相談しておくと、退院後の流れがつながりやすくなります。
▼歯科医院へ直接相談する
ケアマネジャーを介さず、訪問歯科を行っている歯科医院へ直接相談することもできます。
関西訪問歯科センターでは、患者さんやご家族からの直接のご相談を受け付けています。受付後、当センターから担当のケアマネジャーへ連絡しますので、ご家族が両者の間を取り持つ必要はありません。「ケアマネジャーに話を通してからでないと頼めない」と考えてお待ちいただく必要はありません。
お問い合わせの際に次の内容をお伝えいただくと、その場で判断しやすくなります。
- ✓患者さんの住所(訪問先)
- ✓現在困っている症状
- ✓通院が難しい理由
- ✓要介護度
- ✓全身状態や服薬の状況
- ✓希望する訪問日時
歯の痛みや入れ歯の破損など、急なトラブルが起きた場合は、可能な限り当日、もしくは翌日中に対応しています。困っている症状がある場合は、その旨をあわせてお伝えください。
▼初回訪問までに準備するもの
初回訪問の際は、次のものをご用意ください。
- ✓健康保険証、またはマイナ保険証
- ✓介護保険証
- ✓お薬手帳
- ✓各種医療証、受給者証
- ✓身体障害者手帳など
初回は、お口の中だけでなく、全身の状態や服薬の状況もあわせて確認します。そのうえで治療計画を立て、どのくらいの頻度で訪問するか、何回くらいで治療が終わりそうかをご説明します。初回から歯を削る、または抜歯を行うことはありませんので、安心してお迎えください。
訪問歯科についてよくある質問
Q.要介護認定を受けていなくても利用できますか?
A.利用できます。訪問歯科の対象は、要介護認定の有無ではなく、疾病や傷病などによって通院が困難かどうかで判断されます。認定を受けていない方でも、通院が難しい状態であれば医療保険による訪問歯科診療を受けられる可能性があります。訪問歯科を利用するために、先に介護認定を取得する必要はありません。
Q.家族の立ち会いは必要ですか?
A.医院の方針や患者さんの状態によって異なります。初回訪問では、治療計画の説明や全身状態の確認があるため、できるだけご家族に同席いただくのが望ましい場面が多くなります。2回目以降の立ち会いの要否は、患者さんの状態や訪問先によって変わりますので、事前にご確認ください。
Q.寝たきりでなくても利用できますか?
A.利用できます。寝たきりであることが条件ではありません。車椅子での移動が難しい、認知症により歯科医院での治療が難しい、通院そのものが大きな身体的負担になる、といった場合も対象となる可能性があります。
Q.入れ歯の修理だけでも頼めますか?
A.対応できます。関西訪問歯科センターには技工士が在籍しており、入れ歯の修理は当日中に対応できる場合があります。新しい入れ歯の作製は、完成までおおよそ1か月が目安です。ご自宅で型取りをした模型をスキャンし、CAD/CAMで製作する体制を整えています。
Q.デイサービスにも来てもらえますか?
A.デイサービスなどの通所施設は、原則として訪問歯科診療の対象となる場所ではありません。ご自宅や入居されている施設など、日常的に療養されている場所での診療をご検討ください。
Q.急に歯が痛くなった場合はどうすればよいですか?
A.まずはお電話でご相談ください。関西訪問歯科センターでは、可能な限り当日、もしくは翌日中の対応を行っています。入れ歯が割れた、外れたといったトラブルも同様です。
まとめ
訪問歯科は、通院が難しくなった方が歯科治療を受けられるサービスです。
- ✓訪問歯科は、通院が困難な方の療養場所へ歯科医師・歯科衛生士が訪問する保険診療
- ✓対象かどうかは、寝たきりや要介護認定の有無ではなく、通院が困難かどうかで判断される
- ✓虫歯・歯周病・入れ歯・抜歯・レントゲン撮影・口腔ケアなど幅広く対応できる
- ✓費用には医療保険が使われ、条件によって介護保険も関係する
- ✓関西訪問歯科センターでは1割負担で1回3,000円から5,000円程度が目安で、交通費・出張費はかからない
- ✓保険診療として訪問できる範囲には原則16kmという基準がある
- ✓ケアマネジャーを介さず、歯科医院へ直接相談することもできる
お口の不調は、放置しても自然によくなるものではありません。食事量が落ちたり、体力が落ちたりする前に手を打てるかどうかで、その後の生活の質は変わります。
訪問歯科の対象になるか分からない状態でご相談いただいて問題ありません。まずは対応エリアをご確認のうえ、お電話またはお問い合わせフォームからご連絡ください。現在のご状況を伺い、訪問できるかどうか、費用はどのくらいかを具体的にお伝えします。