Columnコラム
誤嚥性肺炎とは?原因とメカニズムを解説
家族が誤嚥性肺炎と診断された、あるいは食事のときにむせることが増えて気になっている。そうしたきっかけでこの言葉を調べる方は少なくありません。
誤嚥とは、飲み込むときなどに食べ物や唾液が食道ではなく気道に入ってしまうことをいいます。誤嚥性肺炎は、それに関連して肺に感染が起きる病気です。この記事では、この2つの違いと、どのような条件が重なって発症につながるのかを整理します。なお、実際に肺炎かどうかの診断は医療機関で行われるものです。
誤嚥性肺炎とは
誤嚥性肺炎は、細菌を含んだ唾液や食べ物などが気道から肺に入り込み、肺で感染を起こす病気です。
通常、口から入ったものは食道を通って胃へ送られます。しかし何らかの理由で気道のほうへ入ってしまうことがあり、そのときに細菌が一緒に運ばれると、肺で炎症が起こることがあります。これが誤嚥性肺炎です。
注意したいのは、誤嚥が起きたことと、肺炎になったことは別だという点です。誤嚥は日常的に起こり得るもので、そのすべてが肺炎につながるわけではありません。健康な状態であれば、気道に入ったものは咳によって排出されますし、少量の細菌であれば体の防御機能が働きます。
また、むせているから肺炎、むせていないから肺炎ではない、という判断もできません。発熱、元気のなさ、食欲の低下、いつもと違う呼吸の様子などが見られる場合は、医療機関に相談してください。誤嚥性肺炎の症状については、症状についてまとめた記事で詳しく説明しています。
誤嚥とは何か
誤嚥性肺炎を理解するには、まず誤嚥という現象を知っておく必要があります。
食べ物や飲み物を飲み込むとき、のどの奥では気道への入口が一時的にふさがれ、食道へ送られる仕組みになっています。この一連の動きを嚥下といいます。この切り替えがうまくいかないと、本来食道へ向かうはずのものが気道のほうへ入ってしまいます。これが誤嚥です。
気道に異物が入ると、それを押し出そうとして咳が出ます。食事中にむせるのは、この反応が働いている状態です。むせること自体は、体が異物を排出しようとしているサインでもあります。
ただし、この反応が必ず現れるとは限りません。反応の力が弱まっていると、気道に入ってもむせが目立たないことがあります。むせていないから誤嚥していないとは言い切れないのは、このためです。
嚥下と誤嚥という言葉の関係については、専門用語をまとめた記事で整理しています。
誤嚥性肺炎が起こるメカニズム
誤嚥性肺炎は、ひとつの原因だけで決まるものではありません。いくつかの条件が重なったときに、感染が成立しやすくなると考えられています。ここでは、関わりが指摘されている3つの要素を説明します。
▼飲み込む機能や咳で排出する力の低下
飲み込む一連の動きには、口、のど、食道のさまざまな筋肉と神経が関わっています。加齢や病気の影響でこの働きが弱まると、気道への切り替えがうまくいかず、誤嚥が起こりやすくなります。
あわせて関わるのが、咳をして異物を押し出す力です。この反応が弱まっていると、気道に入ったものが排出されずに肺のほうまで届いてしまうことがあります。
これらは、本人の不注意や介助する側の手落ちで起こるものではありません。体の機能の変化として生じるものであり、気をつけていれば防げるという性質のものではないという点は押さえておいてください。
▼口の中の細菌を含む物の気道への入り込み
口の中には多くの細菌が存在します。これは誰にでもあることで、それ自体が異常ではありません。
誤嚥のときに、こうした細菌を含む唾液や食べ物が気道へ入ると、肺で感染が起こる要因のひとつになります。口の中の細菌の量が多い状態が続いていると、その分だけ気道に運ばれる量も増えると考えられます。
ただし、口の汚れだけが原因というわけではありません。口を清潔に保っていれば絶対に発症しないというものでもなく、他の要素とあわせて考える必要があります。
▼栄養状態や身体の防御機能の低下
体に入り込んだ細菌に対しては、防御する仕組みが働きます。この働きが弱まっていると、感染が成立しやすくなります。
栄養状態が低下している場合、持病がある場合、体力が落ちている場合などに、この傾向が生じることがあります。誤嚥が起きたときに肺炎につながるかどうかには、こうした全身の状態も関わります。
なお、特定の食品やサプリメントをとれば防御機能が高まって予防できる、といったことを示すものではありません。
誤嚥する物とむせの有無を分けて理解する
誤嚥について整理するときは、何を誤嚥したのかという軸と、むせなどの反応が現れたかという軸を分けて考えると混乱しにくくなります。この2つは別のことを指しています。
| 誤嚥する物の例 | 起こる場面 | 押さえておきたい点 |
|---|---|---|
| 食べ物・飲み物 | 食事中 | むせの有無とは分けて考える |
| 唾液・分泌物 | 食事中に限らず起こる | 不顕性誤嚥と同じ意味ではない |
| 逆流した胃の内容物 | 胃から逆流したとき | 胃酸による肺の障害と細菌感染は別のもの |
▼食べ物や飲み物の誤嚥
もっとも想像しやすいのが、食事中に起こる誤嚥です。飲み込むタイミングがずれたり、食べ物の形状が飲み込みにくかったりすると起こりやすくなります。水のようにさらさらしたものは、のどを速く流れるため誤嚥につながることがあります。
むせが見られれば気づけますが、むせなかったから誤嚥していないとは判断できません。食事の様子だけで安全かどうかを決めることは難しいと考えてください。
▼唾液や分泌物の誤嚥
誤嚥は食事のときだけに起こるものではありません。唾液や、のどの分泌物が気道に入ることもあります。就寝中に起こる場合もあります。
ここで注意したいのが用語です。唾液の誤嚥をすべて不顕性誤嚥と呼ぶわけではありません。唾液の誤嚥は「何を誤嚥したか」の話であり、不顕性誤嚥は「反応がどう現れたか」の話です。別の軸の言葉として区別してください。
▼胃内容物の逆流による誤嚥
胃の中のものが食道を逆流し、気道に入ることもあります。
この場合、胃酸によって肺が化学的に傷つけられる場合と、細菌による感染が起こる場合があり、この2つは分けて考えられています。どちらが起きているかの判断は医療機関で行われるもので、家庭で見分けられるものではありません。
むせなどの反応が目立たない不顕性誤嚥
不顕性誤嚥とは、誤嚥が起きているのに、むせや咳といった反応がはっきり現れない状態を指す言葉です。何を誤嚥したかではなく、反応の現れ方を表しています。
反応が出ないため、周囲が気づきにくいという特徴があります。食事のときにむせている様子がなくても、誤嚥が起きていないとは限りません。
気になる場合は、検査が必要かどうかを含めて医療機関に相談してください。不顕性誤嚥については、不顕性誤嚥についてまとめた記事で詳しく説明しています。
高齢者で注意が必要な理由
誤嚥性肺炎は高齢の方に多いとされていますが、それは年齢そのものが原因というより、いくつかの変化が重なりやすいためです。
加齢に伴って飲み込む機能や咳をする力が変化しやすくなることに加えて、持病があったり、複数の薬を服用していたり、体力や栄養状態が変化していたりすることがあります。こうした要素が同時に重なると、誤嚥が起こったときに感染へつながる条件がそろいやすくなります。
入院や手術の後、体を動かす機会が減った時期などに、一時的にこうした状態になることもあります。
一方で、高齢だから必ず発症するというものではありません。年齢だけで判断せず、飲み込みの様子や体調の変化に目を向けることが大切です。
予防における口腔ケアの役割
口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防に関わる要素のひとつとされています。気道に入る細菌の量を減らすという意味があるためです。
ただし、口腔ケアだけで確実に防げるというものではありません。飲み込む機能への対応、食事の内容や姿勢の工夫、栄養状態の管理など、複数の取り組みが関わります。口腔ケアはそのうちのひとつという位置づけです。
相談先も分かれます。歯や入れ歯の状態、口の中のケアについては歯科が相談先になります。飲み込みの機能そのものの評価や訓練、肺炎の診断や治療については、主治医や医科の医療機関へご相談ください。たんぽぽ歯科訪問センターでは、摂食・嚥下機能への対応と嚥下内視鏡検査は行っていません。
具体的なケアの方法については、予防についてまとめた記事や、口腔ケアについてまとめた記事で説明しています。
通院が難しい方の歯や入れ歯、口腔ケアについてご相談ください。
よくある質問
Q.誤嚥すると必ず肺炎になりますか?
A.必ずなるわけではありません。誤嚥が起きても、咳によって排出されたり、体の防御機能が働いたりすることがあります。感染が成立するには、飲み込む機能や排出する力、口の中の状態、全身の状態など複数の条件が関わります。
Q.食事中にむせていなければ誤嚥していませんか?
A.むせていないことは、誤嚥していないことの証明にはなりません。むせや咳といった反応が目立たない場合もあります。食事の様子を見ているだけで否定することは難しいと考えてください。
Q.口を清潔にしていれば防げますか?
A.口腔ケアは予防に関わる要素のひとつですが、それだけで確実に防げるとはいえません。飲み込む機能や栄養状態など、他の要素も関わります。
まとめ
誤嚥は飲み込むときなどに食べ物や唾液が気道に入ることを指し、誤嚥性肺炎はそれに関連して肺で感染が起こる病気です。この2つは別のもので、誤嚥したから必ず肺炎になるわけではありません。
発熱や食欲の低下など体調の変化が気になる場合は、医科の医療機関へご相談ください。歯や入れ歯の状態、口の中のケアについては歯科が相談先になります。